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高松高等裁判所 昭和49年(う)309号 判決

本店所在地

徳島県鳴門市北灘町粟田字ハシカ谷二〇番地の二

有限会社びんびの家

右代表者代表取締役

嵐英士

本籍

徳島県鳴門市北灘町粟田字湊三七番地の一

住居

同県同市同町粟田ハシカ谷二〇番地の二

会社役員

嵐英士

昭和六年一一月一〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、徳島地方裁判所が昭和四九年一一月八日言渡した判決に対し、各被告人から適法な控訴の申立があつたので、当裁判所は、検察官正木良信、同首藤幸三出席のうえ審理して、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、記録に綴つてある被告人両名の弁護人谷弓雄作成名義の控訴趣意書(ただし、同弁護人は、控訴趣意書第一項記載の事実誤認の主張はこれを撤回し、同項の記載を量刑不当の事情として主張する旨陳述した)に記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官正木良信作成名義の答弁書に記載のとおりであるから、ここにこれらを引用する。

所論は、原判決の被告人両名に対する刑の量定がいずれも重きに過ぎて不当であると主張するのであるが、記録並びに当審における事実取調の結果を総合して按ずるに、本件は、前後三事業年度にわたり、合計四、四〇〇万円余に及ぶ法人税を不正に 脱したという案件であつて、 脱期間も決して短期ではなく、 脱税額も甚だ多額であり、納税の公正平等が強く叫ばれているおりから、その刑責はとうてい軽視し得るところではない。原判決が、被告会社を罰金一、五〇〇万円に、被告人嵐を懲役一〇月、執行猶予三年にそれぞれ処したのはいずれも相当であつて、被告人嵐が本件後その非を反省悔悟していること、被告会社の本件滞納税額もすでに完納されていること、被告人両名にはこれまで格別の前科がないことなど記録に現われた被告人らに有利な諸事情を十分酌量してもなお右各量刑を重きに過ぎると認めることはできない。論旨はいずれも理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木原繁季 裁判官 小林宣雄 裁判官 福家寛)

控訴趣意書

被告人 有限会社びんびの家

被告人 嵐英士

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき被告人らは次のとおり控訴の趣意を陳述する。

被告人らにつき

一、原判決には事実誤認の違法がある。

まず被告人有限会社びんびの家が原判決摘示の場所において所謂ドライブインを営み被告人嵐英士が同会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであることは争いない。

しかし有限会社といつても全くの所謂家族会社で会社経理と所謂経営者個人の財産管理が兎角混同され勝であつたことは否定できない。被告人嵐は自らの個人会計及び右被告会社の収支等殆んど妻政子に委し、自らは仕入れと調理等金銭の出入関係を除く店の事実上の運営に専念していた。従つて店の経理、つまり被告人会社の収支の集計等については無関心とはいえないまでもその実態は十分把握していなかつたというのが実情である。元々会社の最終的な経理、つまり貸借対照表の作成、資産台帳その他の帳簿類の整理、作成等については全くその智識もなく所謂大福帳式の日々の経理が妻政子によつてなされていたというのが実情であつた。

従つて税務署に対する各年度の所得申告に当つては専問の黒崎税理士にすべてを委任し、同税理士の指示のまま、同税理士の代理申告によつて為され、昭和四六年度以降昭和四八年度までそれが続けられており、被告人としては右申告に何らの疑問も特になかつたものである。

ところが今回脱税の嫌疑を受け、その取調を受け、初めて事の重大さに驚き、指摘されるまますべてを認容したというのが実情である。会計事務殊に会社経理というものに全くうとく、日々の経理そのものの実態も明確に把握していない被告人嵐には取調官の取調に反論、弁解もできず、唯唯諾諾全部自白と相成つた次第である。

原判決の認定する 脱の税額についても被告人嵐自身自白はしたものの全く不可解にすら思い驚いているわけである。しかるに原審はこの被告人の自白を基調に検察官提出の全証拠を一括採用、殆んど実質的な審理が為されないままに、しかも被告人が辞退したとはいえ弁護人を付せず審理判決が為されている。

原審挙示の右検察官提出の証拠の中には疑問をはさむ余地のあるものもある。殊に関係人の上申書、質問顛末書中例えば架空の銀行預金の点においても有名銀行が無名の口座を二、三にとどまらず設定したこと、又不動産買入資金にも幾多の疑問が残るに拘らずそのまま採用されて有罪認定の資料となつている。そこに原審の事実誤認がある。

二、次に原審の科刑は重きに過ぎ、この点からも原判決は破棄を免れない。即ち仮に原審の認定に誤りなしとしても被告人嵐本人はその非を認め素直に修正確定申告にも応じ、それによる追加納税もすませているのみならず重加算税等も納付しその責任を果している。

今回の一件により深く反省悔悟し、最早今後に再犯の虞れは全くない。又過去においても前科その他何らの過ちも犯していない。

原審の科刑は余りにもきびしく、被告人の心情が吸みとられていないところに被告人の不満がある。当審におかれては十分如上の点ご配慮の上、被告人の納得できるご判決を期待いたしたく本控訴申立に及んだ次第である。

昭和五〇年一月三一日

弁護人 谷弓雄

高松高等裁判所第一部 御中

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